オールブラックス、資格要件で防止
(「選手流出㊤ Kiwiは何しに日本へ」からつづく)
ニュージーランドでは、オールブラックス(AB)の選手の海外流出を制限するため、NZラグビー協会(NZR)と契約していることをABの資格要件にしています。つまり、海外のリーグでプレーする選手は代表に選出されてない仕組みにして、名誉あるABのメンバーになりたい場合はスーパーラグビーでプレーするよう仕向けています。要は市場規模の小さいスーパーラグビーの人気、すなわち経営を維持するため、もっとも「カネになる」一流選手をつなぎとめていると言えます。ですから、海外でプレーするABは、国際舞台を退くことになったベテランが多くなります。トップリーグ/リーグワンでは、スティーラーズに所属したダン・カーターはよく知られているところだと思いますし、今回のメンバーだとアーロン・スミス(ヴェルブリッツ)やブロディ・レタリック(スティーラーズ)、引退を撤回したデイン・コールズ(スピアーズ)がこれにあたると思います。
一方、前述のように金銭面などの理由で海外でのプレーを希望する選手も多いため、NZRでは、ガス抜き的に短期のサバティカル(サバティカルというのは本来は有給休暇のことで、主に研究者が所属する大学の業務を一定期間免除されることを言います)制度を導入しています。要は国内でプレーするというABとしての業務を短期間免除するというものです。この制度で訪日している選手は、原則1シーズンでNZに戻ります。今のボーデン・バレット(ヴェルブリッツ)やアーディ・サヴェア(スティーラーズ)、サム・ケイン(サンゴリアス)がこれにあたります。これにより、次のワールドカップ(W杯)まで間があるW杯の翌年にサバティカルが集中し、スーパーラグビーがやや地味になる問題はあるにせよ、NZRにとっては基本的には想定内と言えます(逆にW杯翌年はバブル的な盛り上がりになる日本ラグビーにとってもいいことなのか否かという問題もありますが、それについてはここでは論じません)。
ベテランやサバティカル以外も
最大の問題は、ベテランでもサバティカルでもない選手であるブレイブルーパスの2選手、リッチー・モウンガとシャノン・フリゼルです。特にモウンガは3年契約を結んでいるとされ、少なくとも当面はABの要件を満たしません。そのため、ロバートソンHC(この人もその昔、選手としての最後をリコーで迎えています)はNZRに資格要件の変更を訴えたり、3年契約満了後に戻るようモウンガに秋波を送ったりしていたわけです。
この資格要件の話はまた書かせて頂く機会があるかと思いますので、ここでは詳しく述べませんが、海外に本格移籍したABの例は、今季は静岡ブルーレヴズに移籍したチャールズ・ピウタウらの例などがこれまでもありました。また、ワールドラグビーが代表する国の変更を条件付きで認めたこともあり、特にトンガにルーツを持つモウンガのような選手に関しては代表チームを巡る状況は複雑になっていて、同様の例が増える可能性もあります。
アジア太平洋では解決困難
そこで私の感想ですが、まず、大前提として、ラグビーは日本人よりも西洋人や太平洋諸国の人たちに有利にできているスポーツだということがあります。ハカの話で書かせていただいたように、もともと植民地とともに広まったスポーツだということもありますが、それ以前に人種・民族的な身体特性から言っても残念ながらこれは動かしがたい事実です。
ジャパン・マネーが動くのはNZの選手たちにそれだけの力量、すなわちカネを払うだけの「商品価値」があるからです。NZでサバティカル(有給休暇)なる制度で日本に来て、日本の選手よりも多額の報酬を受け取るNZの選手が多いというのは単なる言葉の綾ではなく、このあたりことも象徴しているように思います。言うまでもないことですが、逆はあり得ません。日本からもこれまで、スーパーラグビーに選手が参加したりしましたが、武者修行的な印象が強かったように思いますし、なかなか定着していません。日本のチームとして参入したサンウルブズも、他のチームとの力の差は明らかでした。ラグビーにおいて日本は、あくまでも受動的な立場にならざるを得ないと思います。
ですから、NZの選手流出の問題について、日本ができることはあまりないでしょう。日本としては、リーグワンや所属チームにとって有効だと判断すれば、受け入れるだけの話です。スーパーラグビーについても基本的にはNZとオーストラリアで考えるしかないわけですが、選手層及びファンベースともに競合するラグビーリーグの影響が歴史的に大きいオーストラリアはさらにジリ貧と言えます。両国とは地理的に近く、縁も深い日本ですが、根本的な違いというか「差」は歴然として存在しています。NZと日本の両ラグビー協会は昨年、パートナーシップ協定を結びましたが、双方の利益になるような具体的な成果を上げるのはなかなか難しいように思います。グローバル化によって国ごとにリーグをやる時代ではなくなりつつあるのかもしれませんが、先日のクロスボーダー・ラグビーはあまり楽しめませんでした(ワイルドナイツはチーフスに勝ちましたが)し、選手層の差を考えるとリーグの統合は全く現実的ではないでしょう。
スーパーラグビーに参加していた南アフリカの4チームは、コロナを境に移動距離が短く時差もあまりないヨーロッパのユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップに加入して成功しているようですが、このようなパターンはアジア太平洋では成立しないでしょう。イギリスやフランスなどラグビー文化の中心地と言えるヨーロッパから遠いNZは、経済規模だけでなく、地理的にも不利な条件を抱えています。NZRのマーク・ロビンソンCEOは、競技の活性化を巡るワールドラグビーの会議を終え、今後に楽観的な見通しを示しましたが、どうなるでしょうか。
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ラグビー王国と言われるニュージーランドに暮らして1年。この国のラグビーが抱えるさまざまな状況から見えてきたのは王国の活気というよりも、瀬戸際の危機感でした。それはまさに、よく言われるような楕円球のバウンドを見守るような気持ちです。それも、オフェンス側から見たバウンドではなく、ディフェンス側インゴールでトライを取られるか、何とかドロップゴールに逃れるかというような状況です。このような状況についても少しずつリポートしていきたいと思います。


