最高の試合運びで「下剋上」

オールブラックス23点、アイルランド13点 ラグビー

ラグビーのニュージーランド代表オールブラックス(AB)は11月8日(NZ時間9日)にダブリンのアビバスタジアムでアイルランド代表を23ー13で破りました。雨が降る難しいコンディションの中、ABは粘って終盤に逆転するという今季最高の試合運びを見せ、昨年のワールドカップ準々決勝に続いて世界1位を降ししました。

ハカはイオアネがリード

アイルランド代表はダブリンで19連勝中で、この日もスタジアムには満員の観客が詰め掛けました。注目されたハカは、W杯の試合終了後のジョニー・セクストンとの「口論」で話題となったCTBリーコ・イオアネ(ブルーズ)がリード。アイルランド代表はハカの途中でハーフウェイライン付近まで前進して対峙し、ボルテージが上がりました。

試合はホームのアイルランドが開始早々から積極的に仕掛け、ブレイクダウンでも優位に立ちます。7分にはPGでアイルランドが先制しますが、9分にはこの日SOで先発出場したダミアン・マッケンジー(チーフス)もPGを決めて同点とします。

ABはさらに2本のPGで9ー3とリードを広げますが、前半終了間際の39分にCTBジョーディ・バレット(ハリケーンズ)がヘッドコンタクトでイエローカードを受けます。アイルランドはその際のペナルティを決め、9-6で折り返しとなります。

粘って終盤に逆転、突き放す

数的優位に立つアイルランドは後半開始早々からABのゴール前に攻め込み、42分に5メータースクラムから連続攻撃で両チーム通じてこの試合最初のトライを挙げて逆転し、コンバージョンも決まって9-13とします。

しかし、ABは48分にマッケンジーが再びPGを決めて1点差で追走します。結果的には、ジョーディのシンビン中に得点を奪われるだけにせず、ここで少し取り返したことがその後の流れを呼び込んだように思います。

マッケンジーは、45メートル以上の距離からゴールを狙ったキックは惜しくもポストに弾かれたものの、その後の61分と64分にPGを決め、ABが再逆転。さらに68分にはアイルランド陣内で右から左へダイナミックに展開し、HOアサフォ・アウムア(ハリケーンズ)からパスを受けたFBウィル・ジョーダン(クルセイダーズ)がトライを決め、23ー13として試合を決めます。

光った「代役」2人

世界ランキング3位だったABが昨年のW杯に続いて下馬評を覆してアイルランドに勝利しました。この試合はペナルティを13回も受けたアイルランドの規律の乱れに助けられた面はあったものの、粘ったうえで苦手としていた終盤に逆転するという会心の試合運びとなりました。選手で特に目立ったのは、先週のイングランド戦でのヘッドノックでこの試合は出場停止となったSOボーデン・バレット(ブルーズ)とHOコーディ・テイラー(クルセイダーズ)の「代役」2人です。

スコット・ロバートソンHC体制を正SOとしてスタートしながら、試合のマネジメント面に難があるとの指摘が絶えず、最近はボーデン・バレットに10番を譲る形となっていたマッケンジーでしたが、この試合は落ち着いたプレーを見せました。特にイングランド戦での勝ち越し点となったコンバージョンに続いて、この試合でも長距離のPGを含めてキックが好調で、マン・オブ・ザ・マッチにも選ばれました。

テイラーに代わって2番を着けたアウムアに関しては、ラインアウトのスローイングが課題として挙げられていましたが、この日は前半に一度ゴール前のチャンスでノットストレートをしたものの、そのほかは概ね安定していました。そして何より、持ち味のディフェンスやランプレーで数々の見せ場をつくっていました。

また、ABの課題と言われていたベンチからのインパクトもこの試合は機能しました。後半にSHキャム・ロイガード(ハリケーンズ)が入ってテンポが変わりましたし、LOパトリック・トゥイプロトゥ(ブルーズ)もイングランド戦に続いていい動きをしていました。FLサミペニ・フィナウ(チーフス)の投入により、メディアなどから呼び声の高い7番アーディ・サヴェア(モアナパシフィカ)、8番ウォレス・シティティ(チーフス)というフォーメーションも短時間ながら観られるというオマケもつきました。

アイルランド、空回り目立つ

2試合連続で「下剋上」を果たしたことで、メディアからは「アイルランドは過大評価されてきた」との声も聞かれるようになってきました。私にはアイルランドの「本当の実力」はよく分かりませんが、確かにこの試合の印象からは「王者の風格」のようなものは感じられませんでした。

特にブレイクダウンやラック周りでかなり無理のある絡み方をしていて、それがペナルティ量産の一因になりました。さらに、試合開始早々から若手で経験不足のラティマを露骨に標的にしていて、相手の弱点を突くのは戦いの常道とはいえ、何となくせこい印象を残したのも確かです。

さらに、先述の通り、ハカについては先週のイングランドに続いてアイルランドもハーフウェイライン付近で対峙するという対応を見せました。場外では、イングランド代表PRジョー・マーラーの「バカバカしいのでやめるべきだ」投稿に続いて、元アイルランド代表のゴードン・ダーシーが「対峙しないと一方的な見世物になる」と新聞に投稿したとのことでした。

こういうことがあると盛り上がるのも確かですが、試合結果を踏まえると、どうしてもハカに対するこだわりの空回り感が印象に残ってしまいます。また、全体的に精彩を欠いたこの日のアイルランド代表で、最も輝いた選手がNZ出身でマオリオールブラックスにも選ばれたこともあるWTBジェームズ・ロウだったというのも何とも皮肉でした。

それはともかく、「史上最も厳しい」と言われている欧州遠征の最初の2試合を連勝としたAB。次週はフランス代表との対戦で、ワールドカップ開幕戦の雪辱を目指します。このアイルランド戦を踏まえ、ラインナップがどうなるかにも注目です。

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