ニュージーランドのラグビーシーンを通じて、ラグビーという競技の今後を考える企画「楕円球どこへ」。第7弾の今回は、今週5月30日に予定されているNZラグビー協会(NZR)の臨時総会を前に、「揺れるラグビー王国の中枢」でもお伝えした統治機構改革の現状をまとめてみたいと思います。
選手会、協会から「独立」も
「第2案(地方協会案)が採択された場合、選手会(NZRPA)はプロラグビー運営する新たな組織を立ち上げざるを得なくなる」
ニュージーランドラグビー協会(NZR)の統治機構改革を巡り、NZラグビー選手会は5月21日、地方協会が提案している案が臨時総会で採択された場合、NZRから独立し、プロ競技運営のための新組織を立ち上げるとの声明を発表しました。新組織は「プロフェッショナル・ラグビー委員会」と仮称され、NZRと何らかのパートナーシップを結んだうえで、メディアに絡む権利の営業やスポンサー契約、収益分配モデルの構築、国際及び国内大会の運営などを行うとしています。
声明にはオールブラックスのレジェンド、リッチー・マコウ氏や現役のサム・ケイン、ルビー・トゥイら大物が署名していました。NZRを巡る前例のない大きな動きだとして地元メディアでも大きく取り上げられ、NZラグビー界の「シビル・ウォー(内戦)」と評する媒体もあるほどです。
この統治機構改革問題の経緯については過去の記事にまとめていますが、発端は2022年にまとまった米投資ファンドによるNZRへの巨額投資話です。選手会は、この資金を受け入れる条件としてNZRのガバナンスのレビュー(評価)を要請していました。2023年8月にまとまったレビュー結果では、NZRの規約と統治機構には「目的適合性がない」と指摘され、理事会の理事の選出過程を見直して独立性を確保することなどを求めました。
理事会案と地方協会案、30日の臨時総会で採決
NZR理事会で対応を協議した結果、理事会側は4月に「経過措置」として理事会全体としての出直しは回避し、任期切れとなる理事から順次、選出方法を見直す案を示しました。一方、国内に26ある地方協会側も9人の理事のうち3人は地方協会における実務経験を要件とし、現行の「地方協会枠」を事実上残す案を示しました。
これに対し、選手会側は「レビューをないがしろにしている」(ロブ・ニコルCEO)として、両案に強い不満を表明します。NZR理事会側はこれを受けて譲歩する姿勢を見せ、理事全員が出直すことを受け入れました。これを選手会も評価しており、この案が総会で諮られる第1案となっています。
しかし、地方協会側は態度を変えず、「地方協会枠」を残す案が第2案として存続したまま、30日の総会を迎える見通しとなっています。このままいくと、総会では両案が採決に付され、3分の2の賛成を得た案が採択されるそうです。票数では地方協会案が優位との見方も出ており、予断を許さない状況になっています。
選手会の「独立宣言」を受けて、地方協会側は「地方協会案も理事の選出方法についてはレビュー結果に従っており、選手会の主張は嘘ばかりだ」と反発を強めています。対立の激化を受け、ABのレジェンドでNZラグビーのご意見番的な存在となっているサー・ジョン・カーワンは、公認エージェントとプロ契約を結ぶか否かで意見が割れたプロ化当初の二の舞になるとして懸念を示しました。
「劇場型」「抵抗勢力」に危うさ
さて、この騒動で私が思い出したのは、2005年の日本の郵政改革です。あの時は小泉政権が「改革」を旗印に郵政事業の民営化を「劇場型」の政治で主導し、それに反対あるいは慎重姿勢を見せた自民党内外の人たちは「抵抗勢力」として守旧派とみなされました。今回の統治機構改革では、地方協会がまさに「抵抗勢力」として扱われ、選手会側もまさに地方協会案を「現状維持のための案」と批判しています。
背景も似通っていて、郵政改革は当時、「失われた10年」と言われていたバブル崩壊後の日本経済の停滞感、あるいは日本の経済及び社会の先行きに対する危機感が下地にありました。今回の統治機構改革も、ラグビー人気や収益性の低下、選手流出、ラグビーリーグの隆盛などに対する危機感が背景にあるようです。特に財務面に対する危機感は大きく、草の根レベルのラグビーを司る地方協会に対し、選手会側は「選手の稼ぎを非効率に使われてしまっている」との不満もあるようです。
そういう意味では、「座して死を待つよりは」と強硬に改革を主導したくなる気持ちも分からなくはないのですが、そこに危うさも感じざるを得ません。郵政改革は衆議院選挙を通じて大多数の国民から支持される結果となりましたが、「改革」つまり現状を変えたいという思いばかりが先走り、その改革の結果もたらされる国の姿、つまり何のための改革なのかについては熟慮されていなかったように思います。
今回の改革でも、NZR理事会に代表される統治機構を「より目的に適合したもの」にしなければならないという改革の趣旨はその通りだと思います。しかし一方で、統治機構の改革を経て、山積する危機への対応策として何をするのか、あるいはNZラグビー界が何を目指すのかについては議論が進んでいないように思います。
さらに、このような騒動でよく言われることではありますが、今回の一連の問題を通じて、最も重要なステークホルダーであるファンを置き去りにされているのも事実です。この世界屈指のラグビー王国においてさえ国民の「ラグビー離れ」が指摘される昨今、関係者が「内戦」をしている場合ではないのは明らかです。
カーワン氏はその点を特に憂慮しています。「国民が意見を持って熱くなることよりも、うんざりして関心がなくなることこそが、このスポーツの本当の危機だ」とのカーワン氏の指摘は、的を得ているように思います。


