期待に沿えず「レーザーも人間」

オールブラックス、ロバートソン体制初年総括 ラグビー

ラグビーのニュージーランド代表オールブラックス(AB)は先のイタリア戦で今季の活動を終えました。戦績としては10勝4敗となった「レーザー」ことスコット・ロバートソンHCのファーストシーズンを振り返ってみたいと思います。

戦績10勝4敗は及第点

まず、戦績としては、「歴代最強」とも言われる世界ランキング1位の南アフリカでさえ今季2敗していることを踏まえると、4敗というのは及第点と言えると思います。いずれも勝利に終わってもおかしくない点差でしたし、その意味では「残念な負け」はウェリントンでのアルゼンチン戦くらいだったように思います。

ただし、逆に勝利に終わった試合も、いずれも僅差となったイングランドとのシーズンの幕開けとなった連戦トゥイッケナムでの試合をはじめ、逆に負けていても不思議ではない試合が多かったのも確かです。また、試合運びのうえでもザ・ラグビー・チャンピオンシップではオーストラリアとの初戦まで最後の20分間(クォーター)に得点できない試合が続いたほか、格下の日本イタリア相手にすっきりしない試合展開になることもありました。

ベテラン離れ「軸」失う

一方で、ABが難しい状況だったとことも事実です。ワールドカップ(W杯)後はどのチームも状況はになり寄ったりとはいえ、これまでABを支えてきたLOサム・ホワイトロックやブロディ・レタリック、SHアーロン・スミスらが代表を引退したほか、SOリッチー・モウンガもブレイブルーパスに移籍して代表資格を失い、チームの「軸」のようなものが失われていました。また、皮肉なことに、W杯前に後任が発表されるという「肩叩き」のような形となっていたイアン・フォスターHCのABが、そのW杯で「1点差の準優勝」という期待されていなかった結果を出したのも、ロバートソンHCに対するハードルを上げる結果となっていました。

それでも、全体的に「期待外れ」だったことは否めません。特に、クルセイダーズでスーパーラグビー7連覇という実績をひっさげて鳴り物入りで登場したロバートソンHCに対する期待値が高かっただけに、結果との落差が目立ったように思います。そのロバートソンHCも、選手起用が保守的な一方で、スタンドオフの起用法などでは逆にブレも目立ったほか、腹心のはずだったレオン・マクドナルドACを事実上解任するなど内憂もありました。その意味では、日本的な言い方をすると、「レーザーもしょせん人間だった」ということをNZ国民に知らしめたと言うことができるかもしれません。

シティティ選出、最大の功績

そんな中、ロバートソンHCの最大の功績は、今年のワールドラグビーの最優秀新人賞を受賞したFL/No8ウォレス・シティティを代表に入れたことでしょう。保守的な選手起用を踏まえると、若手のシティティがこれだけ出場機会に恵まれたのは、ブレイブルーパスに移籍したシャノン・フリゼルの後継のブラインドサイドフランカー候補だったサミペニ・フィナウがいま一つだったことと、イーサン・ブラックアダーらが負傷したことによるものだったと言えると思います。それでも、物議を醸したスーパーラグビーMVPのホスキンス・ソトゥトゥを外してシティティを入れるというロバートソンHCの判断が正しかったと言わざるを得ません。

一方、問題があったのはやはりスタンドオフを巡る動きだったと思います。ロバートソンHCはシーズン前から、自他ともに認める「クルセイダーズ時代のクォーターバック」だったモウンガに早期帰国を促したりする一方で、不安定な試合運びが目立ったダミアン・マッケンジーの起用にこだわり続けました。しかし、「魔の最終クォーター」が続くと、正スタンドオフは結局、ボーデン・バレットということになってシーズンを終えます。

「モウンガ問題」来季も継続か

来季以降についても、NZ国内では、本来はあと2年あるブレイブルーパスとの契約を1年早く切り上げて来年の代表シーズンには戻るという「モウンガ早期帰国説」がまことしやかにささやかれる一方、ロバートソンHCは、国内でプレーする選手に限っているABの資格要件の緩和をNZラグビー協会(NZR)に働きかける意向を示しています。スタンドオフというチームの「柱」を巡って、2年連続で場外での議論を抱えるのは、チームの親和性を考えるうえでも得策でないように思います。

そもそも資格要件を巡っては、NZRはルールの変更を否定しています。財政難に陥っているスーパーラグビーにとって、集客力がある「ドル箱」のAB選手の海外流出は大きな痛手で、容易に認められるものではありません。地元メディアも、地元ラグビー界と一蓮托生である以上当たり前と言えば当たり前ですが、概ねルール変更に否定的と言えます。

止まらぬ人材流出、過渡期のラグビー

ただ、モウンガら超一流選手に限らず、人材の海外流出は食い止められないところまで来ているような気がします。「ABの選手層が特に薄い」と言われているスタンドオフに限っても、クルセイダーズの「ポスト・モウンガ」だったファーガス・バークがイングランドのサラセンズに移籍しましたし、ハリケーンズの控えSO的な位置づけだったエイデン・モーガンもアイルランドのアルスターに移ってレギュラーの座を射止めています。さらに、ブルーズのスーパーラグビー制覇の立役者となり、ABデビューも果たしたハリー・プラマーも来季以降、仏クレルモンと3年契約を結んだことが明らかになっています。

ヨーロッパに新天地を求める若い選手は、必ずしも金銭的な待遇に惹かれているわけではなく、あるいは力を着けてNZに戻り、AB入りを目指す選手もいるのかもしれません。とはいえ、AB選出という不確実な「アメ」が、人材を国内にとどめるには不十分であることを示しているとも言えるのは確かですし、そうだとすると、たまさかABに選ばれている選手だけを国内につなぎとめる意味や正当性についての論拠も怪しくなってくるような気もします。

その意味では、ABだけではなく、スーパーラグビーの財政難や、投資ファンドの資金が発端となったNZRの統治機構改革などもあり、大袈裟な言い方をすれば、グローバル資本主義の荒波の中でラグビー自体が過渡期を迎えていると言えます。それだけに、レーザーの責務は、来季以降もますます重くなるように思います。

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