想定外 もう一つのマック問題

オールブラックス、コーチ電撃退任劇 ラグビー

ラグビーのニュージーランド代表オールブラックス(AB)のアシスタントコーチ(AC)だったレオン・マクドナルドの退任が8月22日、NZラグビー協会(NZR)から発表されました。アルゼンチン代表に対するリベンジの大勝の5日後で、スコット・ロバートソンHC体制になってからテストマッチわずか5試合での事実上の電撃解任は地元メディアにとっても想定外で、衝撃が走りました。発表から1週間が経って情報が出そろったころだと思うので、今回はこの退任劇についてまとめたいと思います。

レーザー「フィロソフィの違い」

マクドナルド自身も56キャップの元オールブラックスで、現役時代は主にフルバックで活躍しました。キャリア終盤はダン・カーターの代わりにスタンドオフに入ったりもしました。日本とも縁があり、2004年にヤマハ、2009ー2010に近鉄でプレーしています。

コーチとしては2017年にクルセイダーズでロバートソンのアシスタントコーチを務めた後、2017年にブルーズに転じ、低迷していたチームを再建したと言われていました。2023年限りで退任し、ACのロバートソン体制発足とともにアタック担当のACに就任していました。

退任の理由については、本人もコメントを出したり、報道対応をしたりしていないこともあり、よく分かりません。ロバートソンHCは退任発表直後に報道陣に「フィロソフィの違い」「しっくりいかなかった」などと語っていました

疑問も残る即断即決

時期的に考えると、まさかの敗戦となったアルゼンチンとの第1戦が引き金になったと考えるのが妥当でしょう。そういう意味では新体制の船出となったイングランドとの連戦もいずれも辛勝となり、観ている方からしても「しっくりこない」点が多かったので、あるいはその辺りからギクシャクしていたのかもしれません。

言われているところによると、マクドナルドは体系的・構造的なスタイルを好むコーチだったそうです。あくまでも推測になってしまいますが、恐らく既に退任が決まっていたアルゼンチンとの第2戦で、攻撃面でのそれまでとの違いで目についたのはチップキックとサイド攻撃の多用でしたから、あるいはそのような相手の前がかりなディフェンスにへの臨機応変な対応に抵抗を示していたのかもしれません。

いずれにせよ、わずか5試合での解任という判断は、「レーザー」の異名をとるロバートソンらしいといえばらしい即断即決だったと言えます。もともと「船頭が多いのではないか」と指摘される体制だったこともあり、コーチは補充されず、ディフェンス担当だったスコット・ハンセンがアタックにまわり、パートタイムのコンタクトコーチだったタマティ・エリソンがフルタイムのディフェンスコーチになるようで、実質的な影響はさほど大きくないのかもしれません。

ただ、疑問も消えません。特に「フィロソフィの違い」ということが本当であれば、ロバートソンは昨年からHC就任が決まっていましたし、2019年にスティーブ・ハンセンの後任のHC職に手を挙げた際もマクドナルドをアシスタントに据えていたらしいので、むしろ気付くのが遅すぎたように思います。逆に違いを分かっていたのであれば、「常勝」を求められるABでは難しいのかもしれませんが、上司の側が我慢することも必要だったのではないかという気もします。

サー・ジョン・カーワンは「アシスタントに向かない人もいる」と指摘していました。マクドナルドは既にスーパーラグビー・ブルーズのHCとしてある程度の成功体験もありますし、クルセイダーズのACを1年で退任したのもHC職を求めていたからだとも言われています。しかし、それならなおのこと、間近で見ていたロバートソンは気付くべきだったように思います。

今後の去就にも注目

一方、マクドナルドの今後についても注目されています。マクドナルドはもともと、スコットランド代表のHC就任を打診されていたものの、ABのアシスタント職を優先させたと言われていました。今回の退任を受けて、関心を示しているのがオーストラリアです。ワラビーズは昨年のワールドカップでの惨敗を受けてエディ・ジョーンズが退任した後、ABのアシスタントだったNZ人のジョー・シュミットHCが率いています。

しかし、シュミットは「家庭の事情」で来年での退任が有力視されており、その場合、オーストラリア協会は2027年の自国開催のワールドカップを迎えるワラビーズのHCを探す必要があります。シュミットはブルーズ時代などのマクドナルドの指南役だったと言われており、招へいして引き継ぐのもいいのではないか、というような意見も出ているようです。

さらに、スーパーラグビーサイドにも影響が出そうです。もともとタマティ・エリソンは来季限りで退任する見通しとなっているクルセイダーズのロブ・ペニーHCの後任含みでABのパートタイムコーチになったと言われていました。今回、フルタイムのコーチになるとその人事構想に狂いが生じるため、代わりにマクドナルドがクルセイダーズのHCに就くこともあり得るのではないか、という指摘も出ています。

また、コーチとして4年契約だったマクドナルドには、約2年分の報酬が支払われる見通しとの報道も出てきました。ABコーチの報酬は少なくとも年50万ドル(約4500万円)とされ、ファンド資金の有効活用が引き金となった統治機構改革問題を受けて緊縮財政を求められるNZRにとっては今後の火種になる可能性もあります。

いずれにしても、コーチ退任の話題で騒がしくしている間にABは南アに遠征し、聖地エリスパークで迎えるスプリングボクスとの第1戦のメンバーも発表されています。最大の注目点は前キャプテンのFLサム・ケインがワールドカップ決勝以来の先発復帰を果たすことだと思いますが、この際、10番で先発するDマックことSOダミアン・マッケンジーに本領を発揮してもらって、「もう一つのマック問題」を吹き飛ばしてもらいたいと思っています。

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