オールブラックス(AB)は8月10日、アルゼンチン代表と首都ウェリントンで対戦し、30ー38でまさかの敗戦を喫しました。2024年のザ・ラグビーチャンピオンシップが黒星スタートになっただけでなく、鳴り物入りで就任した「レーザー」ことスコット・ロバートソンHC体制下4戦目にして初の敗戦で、ABがニュージーランドで喫した最多失点という不名誉な記録もつくってしまい、動揺が広がっています。
ABはイアン・フォスター前HC体制下の2020年に初めてアルゼンチンに敗れ、2022年にはクライストチャーチでも負けているので、敗戦自体は今や珍しくないのですが、昨年のワールドカップの準決勝などここのところは危なげなく勝っていただけに、今回の敗戦はかなり想定外だったように思います。今年のチャンピオンシップは南ア遠征があるだけに、ホームでのアルゼンチン2連戦はなんとなくその前哨戦的な印象があったものの、メンバー的にも正ロック2人をケガで欠いていたことを除けば、比較的順当な、現状のフルメンバーに近い構成だったように思います。
ダブルパスミス、命取り
試合は、立ち上がりから攻め込まれてピンチを迎えますが、アルゼンチンのペナルティに救われました。ただし、ABはコーナータッチを選択した2回のペナルティが得点に結びつかず、11分にようやくSOダミアン・マッケンジーのPGで先制します。その直後には、先発デビューとなってラインアウトのキャッチでも安定感を見せていたLOサム・デアリ―がトライを決め、波に乗るかに思えました。
しかし、アルゼンチンもくらえ付き、前半は両チームとも2トライずつを挙げ、20ー15のAB5点リードで前半を終えます。
ところが、後半開始早々、アルゼンチンはラインアウトからフォワードがなだれ込んで同点トライを挙げると、SOサンティアゴ・カレーラスのコンバージョンが決まって20ー22とこの試合で初めてリードします。その後は両チームPG1本ずつを成功させた後、ABは51分に連続攻撃からWTBマーク・テレアがフィニッシュし、再び30ー25の5点差とします。
56分にカレーラスに再びPGを決められて2点差とされた後、終盤に悲劇が襲います。アルゼンチンボールのラインアウトを6番で先発出場していたFLイーサン・ブラックアダーがスティールしたものの、そのボールを拾ったNo8アーディ・サヴェアがパスを後ろにそらし、さらにそのボールをカバーしたマッケンジーもパスを大きく後ろにそらすという重大なミスが続きます。その場は途中出場のリーコ・イオアネのキャリーバックで何とか難を逃れましたが、5メータースクラムから連続してサイドを突かれて途中出場のベテランHOアグスティン・クリーヴィにトライを許して逆転され、コンバージョンも決まって残り11分で5点差となります。78分にもPGを決められて8点差とされ、敗戦ボーナスポイントも失うことになりました。
試合開始後60分間、スクラムなし
予想外の敗戦に加え、3万4500人収容とされるスカイスタジアムの観客は2万5000人程度と空席も目立ち、何となく寂寥感も漂いました。ただ、ABの敗因については、なかなか端的には分かりにくい試合でもありました。
試合展開上は当然のことながら終盤のダブルパスミスが勝敗を分けたことは間違いありません。全体的にアルゼンチンが、特にディフェンスで前がかりのプレッシャーをかけてきていて、イングランド戦なども踏まえて「ホームワーク」をやってきている印象でした。その意味では、アルゼンチンがリードされても食らいついて行ったことが最大の勝因と言えます。
また、後半に入ってからの60分までスクラムがないという珍しい試合展開で、そこからの4本のスクラムも全てアルゼンチンボールでした。それだけハンドリングエラーのない締まった試合展開だったということなのですが、ABの1番イーサン・デグルートと3番タイレル・ロマックスはスクラムをしないまま交代してしまいました。そのために自慢のスクラムを生かしてペナルティを取るなどしてペースをつかめなかったこともABにとっては意外と痛かったように思います。
ただ、それより気になったのは、チーム全体のまとまりのなさです。新体制になって間もなく、この試合はキャプテンのスコット・バレットもけがで欠いていたので仕方がない面はあるのですが、試合を通じてAB側になんとなく一体感のない白けた雰囲気のようなものが感じられました。
気になる指揮官の「クルセイダーズ寄り」
それに拍車をかけていたのが、ロバートソンHCが試合後、スタンドオフとして試合をうまくマネジメントできなかったマッケンジーをボーデン・バレットらと代えるのかメディアに問われ、「(マッケンジーを)支えていく」と答えたことです。ロバートソンHCは、日本でクルセイダーズ時代の「教え子」、リッチー・モウンガに公然と早期帰国を促していただけに、こういう発言はどうしても白々しく響いてしまいます。
気になり始めるとますます気になってしまうのは、ロバートソンHCの「クルセイダーズ寄り」の姿勢です。キャプテン候補としては、現場レベルで呼び声の高かったアーディ・サヴェアではなく、クルセイダーズのキャプテンに起用したLOスコット・バレットを起用したのもそうですし、それほど見せ場を作れていないWTBセヴ・リースを4戦連続で先発起用しているのもクルセイダーズだからなのかと勘ぐってしまいます。
そもそもABのHCに就任してから古巣クルセイダーズの選手起用に口出しした「デヴィッド・ハヴィリ問題」には驚きましたし、それだけに今回のメンバーにハヴィリが招集されたのも、クルセイダーズでロブ・ペニーHCに起用してもらった手前もあったのかと考えてしまいます。元HCとして「得意分野」となっているクルセイダーズでの経験を生かしているということなのかもしれませんし、選手たちも一流のプロなのでこのようなことはいちいち気にしないのかもしれませんが、チーム全体の一体感や士気の醸成を図るうえでは、指揮官のこういう姿勢はプラスではないように思えます。
次の土曜日の第2戦の会場は、6年間テストマッチで勝利がないウェリントンと違い、ゲンのいいオークランドのイーデンパークだということもあり、よもや2連敗はないと思います。それでも薄氷の連勝となったイングランド戦以来、クルセイダーズでスーパーラグビー7連覇という偉業を成し遂げたロバートソンHCに「過剰な期待をしていた」という論調がメディアでも散見されていただけに、今後を占う上で次は「勝ち方」も重要になってくると思います。


