8月10日に開幕するラグビーの南半球4カ国対抗戦「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」に臨むオールブラックスのスコッド36人が発表されました。「レーザー」ことスコット・ロバートソンHCによる新体制下で最初のテストマッチ3試合を3連勝でスタートしたものの、その中で見えた課題も反映された人選になっていました。その辺りも踏まえながら、ポジションごとに陣容を見て行きたいと思います。
フロントロー充実、ロックは層薄く
まずは、フォワードですが、フロントローについては概ね順当な人選と言えると思います。フッカーについては、サミソニ・タウケイアホ(チーフス)の負傷がある中で、ベテランでオールブラックスの精神的支柱とも言えるコーディ・テイラー(クルセイダーズ)を筆頭に、スーパーラグビーでの活躍も光ったハリケーンズのアサフォ・アウムアの選出は当然だと思います。3人目はブルーズの2人あたりも候補だったと思いますが、デビュー戦となったフィジー戦でも安定していたジョージ・ベル(クルセイダーズ)が残るのが年齢構成から言っても妥当のように思います。テストマッチでもスクラムで強さが光ったプロップについては文句なしの陣容で、むしろそれぞれの試合でベンチ入りするメンバーをどう選ぶかが焦点となってくると思います。
ロックについては、当初の3人に、追加招集でフィジー戦でデビューしたサム・デアリ―(ブルーズ)が残りました。レジェンドと言っていいサム・ホワイトロックとブローディ・レタリック(スティーラーズ)が抜けたロックはもともと選手層に不安があると言われていたうえに、キャプテンのスコット・バレットは指を負傷して少なくともアルゼンチンとの初戦は出場できないとみられるうえ、パトリック・トゥイプロトゥ(ブルーズ)も負傷がちで不安が残ります。ナイトア・アクォイ(チーフス)あたりの追加もあるかと思いましたが、補充要因として名を連ねたのは同じチーフスのジョシュ・ロードでした。やはりイングランド戦で散々だったラインアウトの安定に重点が置かれているようです。
ケイン復帰で今季は第三列に迫力
一方、選手層が厚いと言われた割に3連戦ではやや物足りないパフォーマンスとなったバックローは、前キャプテンで今季限りでの代表引退となるオープンサイドフランカーのサム・ケイン(サンゴリアス)が追加されました。けがの癒えたケインが完全復活となればスクラム、ラック周りの迫力が増すのは間違いありませんが、2027年の次回ワールドカップを見据えるとなお課題が残ります。地元メディアではアーディ・サヴェア(来季モアナ・パシフィカ)をオープンサイドで起用すべきだとの意見も見られました。No8で世界最優秀選手に選ばれたばかりの選手を7番で起用することには抵抗もあるようですが、スティーラーズでは7番を着けていたこともあり、私もサヴェアをオープンサイド起用に賛成です。サヴェアはボールの近くに配置した方が攻守ともに持ち味が生かせると思いますし、第三列の起用の選択肢が広がります。その方が他のNo8、デビュー戦でも光ったウォレス・シティティの出番も増えるでしょうし、私は今回も招集されなかったホスキンス・ソトゥトゥ(ブルーズ)も見られるような気もします。
さて、今回の人選で最も話題となったのはスクラムハーフだったように思います。ベテランのTJペレナラ(ハリケーンズ)に加え、3連戦でデビューしたコルテス・ラティマ(チーフス)、ノア・ホッサム(クルセイダーズ)が残り、昨年のワールドカップではアーロン・スミス(ヴェルブリッツ)に続く2番手の扱いだったフィンレイ・クリスティ(ブルーズ)が外れることになりました。リーグワンのブラックラムズと3年契約を結んだペレナラの代表活動は今季限りとなりますので、このままだと今や「エース」と言っていいキャム・ロイガード(ハリケーンズ)がけがから復帰すると、SH全員が20代前半となり、かなりの世代交代となります。3人ともどちらかと言うとランプレーを得意としており、クリスティはオーソドックスなプレイスタイルでディフェンス力が持ち味です。クリスティはもともとメディアからもあまり評価されていなかった印象がありましたので、特にバックスには意外と華麗なプレーを求めるニュージーランドらしい人選と言えるかもしれません。
ハヴィリ追加の意味とは
スタンドオフはダミアン・マッケンジー(チーフス)はポジションをキープし、これにイングランド戦でフルバックとして衝撃の「スーパーサブ」ぶりを見せたボーデン・バレット(ブルーズ)、メンバー表ではアウトサイドバックス(WTB/FB)の扱いとなっているスティーブン・ペロフェタ(ブルーズ)を加えた3人で回していくことになろうかと思います。リッチー・モウンガ(ブレイブルーパス)の早期帰国がなければ、ですが。
ただ、ここで一つ検討を要するのが、今回センター(ミッドフィルダー)として加わったデヴィッド・ハヴィリ(クルセイダース)です。ハヴィリと言えば、スタンドオフの起用が迷走していた今季のクルセイダーズで、前HCのロバートソンの「助言」でけがから復帰したリーグ戦の終盤にスタンドオフとして出場した経緯がありました。本職はセンターなので、リザーブがフォワードに偏重しがちな現在の潮流に従えば、便利な選手だと言えるのかもしれません。それにしても、スタンドオフの実力としては、上記の3選手に伍するだけの実力を有しているとは言い難いと思えますので、今回の招集はロバートソンHCがクルセイダーズでのSO起用の「言い出しっぺ」として回収したような印象も受けてしまいます。
センターはそのハヴィリが加わったこと以外は変更ありませんでした。スーパーラグビーで目覚ましい活躍をして、先発としてデビューしたフィジー戦でも結果を残したビリー・プロクター(ハリケーンズ)や、これまではスーパーサブ的な扱いだったアントン・レイナート=ブラウン(チーフス)の評価が上がっていますので、イングランド戦で今一つだったリーコ・イオアネ(ブルーズ)との13番争いが注目されています。
「点取り屋」ジョーダン、どこで起用
最後のアウトサイドですが、けがでスーパーラグビーシーズンを棒に振った稀代のトライゲッター、ウィル・ジョーダン(クルセイダーズ)が復帰を果たし、今回のメンバーで唯一の初招集となったFBのルーベン・ラヴ(ハリケーンズ)が加わり、エモニ・ナラワ(チーフス)が落選となりました。この人選自体は順当だと思いますが、問題はジョーダンをどこで起用するかです。ジョーダンは本職がフルバックですが、昨年のワールドカップなどオールブラックスではウィングでの起用も多くなっています。FBについては、SOの3人ともこなせますし、今回専門職のラヴも加わっています。ウィングはマーク・テレア(ブルーズ)、セヴ・リース(クルセイダーズ)、ケイレブ・クラーク(ブルーズ)の3人となりましたので、ジョーダンは原則的にWTB起用が念頭に置かれているのかもしれません。ただ、私の好みから言うと、ジョーダンはFBで起用してボーデンをスーパーサブとし、ウィングはブルーズの2人がいいと思っていますが、どうなりますか。
今年のザ・ラグビーチャンピオンシップでは、オールブラックスは10、17日に地元でアルゼンチンと対戦した後、南アフリカへ遠征となります。


