揺れるラグビー王国の中枢

ラグビー

ニュージーランドのラグビーシーンを通じて、ラグビーという競技の今後を考える企画「楕円球どこへ」。第3弾の今回はNZラグビー協会(NZR)を揺るがしている統治機構改革をお届けします。

発端は米ファンドの資金投入

「自己顕示しているだけで、目的不適合だ」

NZラグビー選手会のロブ・ニコルCEOは4月3日、厳しい口調でNZRの理事会を批判し、理事の総辞職を求めました。この反応は、NZRが発表した統治機構改革案を受けたものでした。さらに、国内に26ある地方協会サイドも独自の改革案を提示して対立しており、NZのラグビー界を揺るがす騒動となっています。

発端は、2022年にまとまった米投資ファンド、シルバーレイクによるNZRへの2億NZドル(約180億円)の投資話です。この資金受け入れに同意する条件として、選手会がNZRのガバナンスのレビューを求めたのです。

関係者の合意に基づいて設置されたパネルによるレビュー結果は2023年8月にまとまりました。それによると、パネルは「NZRの規約と統治機構は目的適合性があるか」などについて調査しましたが、結果は「断固ノー」でした。そのうえでパネルは、①理事の選出過程を見直して理事会の独立性を確保すること②広範な関係者の声を反映するためのステークホルダー評議会を設置することーーの二つの改革を求めます。

NZR、地方協会、選手会の三つ巴

これに対し、理事の選出過程への関与など既得権を失うことになる地方協会側は反発し、理事のうち3人を地方協会の実務経験者とする「地方協会枠」を設けた案を提示します。これに対し、NZRは「経過措置」として、任期切れに伴って理事を入れ替える改革案を発表し、理事会議長のデーム・パッツィ・レディーは理解が得られなければ「職を賭す」とまで言い切りました。さらに選手会は、地方協会とNZRのどちらの案にも賛同せず、レビューの要請を即時実行するよう求めて冒頭の発言に至ります。

NZRは近く、臨時総会を開いて改革案を諮ることになっています。規約の改訂には3分の2以上の賛成が必要だそうで、この改革の行方は先の読めない状況となっています。

それにしても、なぜここまでこじれたのでしょうか。一つ分からないのが、選手会が本当のところ、なぜガバナンスのレビューを要求したのかというところです。最近の報道を見てもよく分からないので想像するに、ファンドから巨額資金が投入される以上、その有効活用を図るために機構の見直しが必要だと考えたのかもしれません。あるいは、単純に選手の報酬増を目指し、地方協会に流れるカネが無駄だと言いたかったのかもしれませんが、いずれにしても真相はよく分かりません。

ただ、一つ言えることは、改革の「目的」が置き去りになっているように感じられることです。レビューでも観客の減少や経営の悪化などにより、この国のラグビーの持続可能性に危機感が示されました。しかし今、議論されているのはその具体的な対応策ではなく、入り口の組織論です。組織を見直さなければ先に進めない、との意見もあるのかもしれませんが、私には解決策の見出せない危機に直面した組織が、本質的な対応策は棚上げにしたまま組織いじりをして「改革」をした気になるという、さまざまな組織にありがちなことをしているようにしか見えません。

新自由主義の影響、色濃く

また、新自由主義の影響も色濃く反映されているように思います。NZは1980年代に新自由主義的な構造改革を経験している国で、政府機関は縮小され、さまざまな組織機構が民営化あるいは民間移管されています。日本も2000年代の郵政民営化の際、NZの郵政事業を参考の一つとしたくらいです。小泉政権も郵政民営化の際、「改革」を旗印としましたが、今回の地方協会側の反応を見ていると、当時の「抵抗勢力」を思い出します。

問題は、この「劇場型」の対立の行方よりも、それが何をもたらすのか、です。新自由主義とは、市場で自由競争できるようなシステムをつくることです。そのために規制改革などを通じて今回の地方協会の問題のような非効率を改めようとします。しかし、今や市場に国境はありませんので、市場が生み出す富は、自らの国にもたらされるとは限らないのです。そこで国は新たな規制をつくり、市場の富を抱え込もうとします。ここに新自由主義の最大の矛盾があると言えます。

例えばラグビーで言えば、1990年代にオーストラリアやNZが主導したプロ化の流れは新自由主義がもたらしたものです。直接の原因はラグビーリーグの隆盛ですが、無駄をそぎ落としてエンターテインメントとして効率化された競技であるラグビーリーグそのものも、新自由主義の申し子だと言えます。そのプロ化を主導したNZが、国内のスーパーラグビーを維持するためにオールブラックスの資格要件を国内選手に限る「規制」をして、スター選手がもたらす富を抱え込もうとしているというのも矛盾の一つだと言えます。

今回の統治機構改革も「効率化」に重点が置かれています。旧態依然としたガバナンスがいいとは言いませんが、一方で改革の先にも明るい未来は見えません。NZだけでなく、ラグビーの母国イギリスでも経営難が相次ぐなど、ラグビーを取り巻く環境は厳しさを増しています。次の荒波は、もはや新たな規制で回避できるようなものでもないような気がします。米ファンドからの巨額資金の投入は、このラグビー王国にとって、まさにラグビーボールのようにどっちに転ぶか分からない「諸刃の剣」であるように思えます。

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