金銭VS名誉、苦悩の連続

ラグビー

(「貢献VS権利、苦難の歴史」からつづく)

昨年のラグビーワールドカップ前、ナショナルテレビのTVNZが一本のドキュメンタリー作品を放映しました。題名は『ファミリー、フェイス、フッティ(Family Faith Footy)』。太平洋島しょ国(パシフィカ)ゆかりの選手の家族、信仰、ラグビー(フッティとはフットボールのことです)についての物語です。

ピウタウ、海外移籍で不遇

作品には、前出のサー・ウィリアムズやサー・ジョーンズをはじめ、イングランド代表のマヌ・トゥイラギ(サモア系)、アイルランド代表のバンディ・アキ(同)、トンガ代表のマラカイ・フェキトアらそうそうたる人たちが登場します。その中でも目を引いたのが、元オールブラックス(AB)で、今季は静岡ブルーレヴズでセンターとしてプレーしているチャールズ・ピウタウの話でした。

トンガ移民を両親に持つピウタウは10人兄弟の1人としてオークランドで生まれ、母の妹の養子となります。スーパーラグビーの地元チーム、ブルーズの選手となり、2013年にはABにも選ばれ、順風満帆なラグビー人生をスタートします。しかし2015年、アイルランドのアルスターに2016年に移籍することを発表すると、残りの期間はABに呼ばれずにその年のワールドカップ(W杯)には出場できなかったうえ、ブルーズの試合にも出してもらえなかったといい、国民から「不誠実だ」などの言葉を浴びせられたといいます。アルスターから提示された年俸はNZで受け取っていた額の2~3倍だったといい、ピウタウは「家族のために何ができるかを考えた」と言います。しかし、「感じたのは怒りと不満だった。(海外移籍をする)他の選手たちにも悪影響を与えてしまった」と話していました。

ドキュメンタリーではこの直後に、今季から日本のブレイブルーパスに移籍したため、国内でのプレーを条件とするABの資格要件を満たさなくなったリッチー・モウンガ(トンガ・サモア系)が登場したため、ややぎょっとしました。しかもモウンガは「自分にとっても家族が一番。(選手の移籍は)他人がとやかく言う問題ではない。彼ら自身の問題だ」と意味深なことを非常にはっきりとした口調で言ってのけます。

トンガ代表入りで誇り取り戻す

ピウタウは2017年に移籍したイングランド・プレミアシップのブリストル・ベアーズで当時の過去最高年俸のラグビー選手となりますが、資格要件を満たさないABには呼ばれなかったために国際舞台とは無縁となります。しかし、ワールドラグビーが国代表チームの変更を血縁などの条件付きで認めたため、2023年のW杯にトンガ代表として出場することがかないます。劇中、ピウタウは「トンガ代表してプレーできるのは、人生で一度というような経験だ」と誇らしげに話し、「母国」トンガでの国際試合に臨みます。

この物語は、独立を果たしても貧しさが残る太平洋島しょ国パシフィカをルーツに持つ選手が、一族の期待を背負っているがためにつかみ取りに行く「金銭」と、それによって失うことになる国際舞台で国を代表するという「名誉」の葛藤を表しています。一方で、劇中でも示唆されていることですが、この姿は同時に、NZという経済力のある国が、経済力のないパシフィカの選手たちをいかにして抱え込もうとしてきたかについての物語でもあると言えるのではないでしょうか。

日本でも目を向ける時

さて、経済力による抱え込みの話となると、我が国日本の話も避けては通れません。言うまでもなく、日本でも以前から「そろばん留学」を推奨していたトンガをはじめ、フィジーやサモアなど多数のパシフィカ選手が活躍してきました。ワールドラグビーの規定では、原則的にその国で5年間プレーした選手は代表に選ばれる資格を得るため、日本代表にも多様なルーツの選手が参画しています。かつては「これで日本代表と言えるのか」というような心無い声も聞かれましたが、W杯などでの活躍もあり、ラグビー日本代表の多様性は定着した言えると思えます。

ただ、私たちはパシフィカなど多様なルーツを持つ選手たちの「貢献」ばかりに目を向けがちですが、帰化の問題などその選手たちが異国日本で賭してきたことやものには十分目を向けて来なかったように思います。選手たち個人の思いはともかく、見方によっては日本ラグビーを強くするためにそういった選手たちを「金銭」で抱え込んできた側面もあるでしょうし、何より日本のパシフィカの人たちも意思決定への参加という「権利」はほとんど得られていないように見受けられます。

今回のNZのパシフィカの物語を通じて、私たち日本のファンも、日本代表の活躍や多様性の定着を喜ぶだけでなく、その多様な選手一人一人の実情や思いにも目を向ける時期に来ているように思えました。それぞれのウェルビーイングあってこその多様性です。そういう意味では、NZという国は、前回の「楕円球どこへ」で論じた選出の受け入れなどを通じてラグビーを学ぶための国というだけではなく、地球の反対側にある日本の鏡でもあるようにも思えてきました。

(『Family Faith Footy』は本当にいいドキュメンタリーなので、自分で翻訳して日本に紹介したいくらいです。どなたかそういう伝手がある方がいらっしゃいましたら、「お問い合わせ」からご連絡を頂けると大変うれしいです。)

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